2020年08月10日 夕方公開終了

 神さまのことを知った人、それは神さまへの愛の結果、神さまの真の知識をえた人であり、また、知識とおこないの結果、神さまへの愛に気づいた人のことで、つまり第三の段階に達した人です。知識とおこない、それから愛、それから真知の三段階です。

 知らなければおこなうことはできず、知っておこなうことがなければ愛することはなく、愛することがなければ真知に至ることはありません。ですから、知識はおこないの条件であり、おこないは愛の条件であり、愛は真知の条件です。

「知識」とは、神さまについての知識であり、神さまの規則についての知識です。

「おこない」とは、ただ神さまだけを目指した純粋なおこないです。

「愛」とは、神さまのしんじつの愛です。

「真知」とは、神さまの真の知識です。

 知識のある人のうち、どれほど多くが、神さまと神さまの規則のことを知らないことでしょう。また、神さまと神さまの規則のことを知った人のうち、どれほど多くが、それにしたがっておこなう人でないことでしょう。あるいは、せっかく知っていても、それをどのようにおこなったらいいのかわからないため、それと別のものにもとづいたおこないをしている人が、どれほど多くいることでしょう。あるいはまた、知識にもとづいておこなう人でも、どれほど多くが、そのおこないにおいて神さまだけを目指していないことでしょう。あるいは、神さまだけを目指したとしても、その状態が長続きしない人がどれほど多いことでしょう。

 それでは、愛に到達することはできず、神さまの真の知識に到達することはできません。また、愛する人のどれほど多くが、神さまへの愛とそれ以外の愛を混同し、神さまへの愛をそれ以外のものへの愛だと勘違いしていることでしょう。また、たとえ自分の愛が神さまへの愛だとわかっていても、愛の大きさはその愛するものをどれだけ知っているかに応じるものなので、自分では気がつかないうちに神さまのしんじつをこばみ、恩をわすれ、その結果、神さまの真知を見る目を封じられてしまうことがあるのです。

《本連載は、以上をもちまして終了です。続きは書籍『やさしい神さまのお話』でお楽しみください》

中田考(なかた・こう)

イスラーム法学者。1960年岡山県生まれ。灘中学校、灘高等学校卒業。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院文学部哲学科博士課程修了(Ph.D)。1983年にイスラーム入信、ムスリム名ハサン。『13歳からの世界征服』『70歳からの世界征服』『みんなちがって、みんなダメ』『イスラーム学』『イスラーム入門』『帝国の復興と啓蒙の未来』『イスラーム法とは何か?』『カリフ制再興 』など著作多数。

中田香織(なかた・かおり)

1961年静岡県生まれ。京都大学人文科学研究科博士課程単位取得退学。1991年パリでイスラームに入信。夫は本連載監修の中田考。著書『イスラームの息吹の中で』『やさしいイスラーム講座』『ムスリムの道』ほか。2008年8月16日没。