電気グルーヴ04-TAKE OFF AND LANDING

2018年09月03日 夕方公開終了

文=T.V.O.D

パンス 僕がいろいろと音楽を聴き始めたタイミングで『A』が出てるので、その頃のことはよく覚えてる。「ロッキング・オン・ジャパン」とかも読んでたけど、そこでは『Orange』や『ドリル・キング・アンソロジー』にあった諧謔をほぼ取り払って、スッキリとリニューアルしました的な語られ方だったな~と。お茶の間でも「Shangri-La」ガンガン流れてたし、「ポケットカウボーイ」も「コジコジ」のエンディングテーマだったし。このアルバム自体は、砂原良徳がキーになっていたんだよね。

コメカ 『ORANGE』の後、バンドとして行き詰まっていた状況が、「Shangri-La」及び『A』を会心の一撃って感じでリリースして、創作的な意味でもセールス的な意味でも電気グルーヴが息を吹き返した、って感じだった。それまでよりも石野・瀧・砂原の三人の個性がガッツリ混ざり合ったアルバムとして『A』はあって、例えば以前のアルバムだったらここらへんは石野の音像、ここらへんは砂原の音像、みたいに感じられた境界線が、もっと曖昧になっている。バンド感が強いというか。ただ、全体を通したサンプリングベースの音作りや、サイケデリックな雰囲気は砂原のソロデビューアルバム『CROSSOVER』や、その時期のリミックスワークからの流れを感じさせる部分が大きい。ヒカシュー「プヨプヨ」のリミックスとか、いま聴いてもすごい。

パンス サイケデリック感あるよね。といってもトランスではなくて、トリップ・ホップ的なアプローチ。厳密にブレイクビーツど真ん中な曲はないんだけど、手触りがそっちに近付いてる。デジタル・ロックなんて言葉もありました。

コメカ まあこの時期、1997年前後って、ビッグビートみたいなものも含めて、ブレイクビーツ的な音楽性が流行ってた。で、ただ砂原の当時の世界っていうのは実はそれと似て非なるものというか、手法としてはブレイクビーツだったりヒップホップ的だったりするんだけど、肝心なのはその手法を使って「虚構」を組み立てようとしてるところだったと思うのね。その志向は『A』の構造を支えているし、コーネリアス『ファンタズマ』にも強い影響を与えている。で、それらのアルバムよりもはっきりと「虚構」の構築を明示的に志向したのが、1998年の「TOKYO UNDERGROUND AIRPORT」と『TAKE OFF AND LANDING』。

パンス うんうん。新宿の地下に空港を建てる、というコンセプト。アルバム出たタイミングの『マーキー』の特集とか読んだな~。その記事自体がコンセプトを補強するような存在になっているというね。しかし「虚構」ではあるけど、大仰な物語をひとつのアルバムで表現してみた、っていうものではないと思う。設定だけがあるというか。

コメカ そう、「物語」は無いのよ。コンセプトと設定だけがある。そして驚くべきは、『TAKE OFF~』の頃の砂原にとっては、音楽もそのコンセプト/設定の中の一アイテムとして想定されていたということ(笑)。コンセプト/設定としての「虚構」を作り出すことこそが当時の彼のソロ創作における重要事項だった。だから例えば「TOKYO UNDERGROUND AIRPORT」のジャケには、「乗り入れ航空会社」として16社の実在の航空会社のロゴが入っている。そこがフェイクのロゴだと、「虚構」の強度が弱くなる、という(笑)。究極の妄想というか、脱政治的な傾向がエクストリームな形になって結実したのが当時の砂原の世界じゃないかと思っていて。新人類的な系譜の中にあるサブカルチャーで、ここまで妄想的な表現ってあんまり思い当たらない。

パンス サンプリング/カットアップ、みたいな思想って、椹木野衣『シミュレーショニズム』で唱えられたように、出てきた当初は乱雑に「盗んで」切り貼りされるものだったけど、こと日本の、東京の音楽においては、それが過剰に進化しちゃったってことじゃないかな。物語性を拒否するスタンスが、逆説的に「設定」が肥大化していく状況を招いたというか。特異な表現だったと思うし、あの頃にしか存在し得ないものになってしまったよね。で、その感覚をアートワークで担っていた常磐響の作品は、『広告批評』での「TOKYO POP」特集→「スーパーフラット」として紹介されるようになる。それが90年代の終わり頃。

コメカ サンプルを歴史や文脈から切断して、その貼りあわせで「虚構」を設定/構築する。90年代の日本のサブカルチャー環境は、そういう「盗用」みたいな所作に対して屈託が無さ過ぎたというか、欧米圏よりもずっと無邪気にそういうサンプリング/カットアップ行為ができてしまった、っていうかね。新人類的な「物語」の破壊志向が行きつくとこまで行ったことのひとつの結実として、「TOKYO UNDERGROUND AIRPORT」や『TAKE OFF AND LANDING』はあったと思う。「物語」が失われたあと、設定とコンセプトだけが「虚構」として残る…。だけど、こういう路線はゼロ年代に入って急速に衰退するんだよな。砂原もコーネリアスも、サンプリングコラージュ的な作風をやめる。まあ単純にサンプルの権利問題とかそういう側面もあっただろうけど、「虚構」を立ち上げることに魅力が無くなっていったというか、それに対する「現実」への信頼度が揺らいでいったところがあるんじゃないかと思ってて。(つづく:9/3更新、電気グルーヴ05「Nothing’s Gonna Change」)

T.V.O.D.(てぃーゔぃーおーでぃー)

毎週土曜日、tumblrで政治や文化についての記事を更新しているテキストユニット。URL https://tvod.tumblr.com こめか/1984年生まれ。サブカルチャーや戦後民主主義が好き。テクノポップバンドmicro llamaのメンバー。Twitter @comecaML ぱんす/1984年生まれ。地図と年表を見るのが好き。Twitter @panparth

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  1. 思えば「A」はテクノじゃない。その物足りなさがリミックス盤を作らせたのか?まりんが「次はファンク」と語っていたのはコラージュ的手法からミニマムな路線への変更を示唆していたのか?

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  2. アンダーグラウンドエアポートにおける「設定マニア」ぶりと「虚構の構築の仕方」は既視感があって、それはモデグラの企画センチネルなんですよワカリマス? https://t.co/HbeD1OM53T

  3. コメカとパンスのTVOD、百万年書房LIVE!で連載中の「ポストサブカル焼け跡派」、電気グルーヴ編第四回。公開は9/3(月)まで!

    「究極の妄想というか、脱政治的な傾向がエクストリームな形になって結実したのが当時の砂原の世界じゃ… https://t.co/8Yn5yd18F1

  4. “「物語」が失われたあと、設定とコンセプトだけが「虚構」として残る…。だけど、こういう路線はゼロ年代に入って急速に衰退するんだよな。”

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  5. 相変わらずとても面白い。「ブッチュくんオール百科」(1999)を思い出しますね。
    電気グルーヴ04-TAKE OFF AND LANDING https://t.co/ARDhiAmhNA

  6. 電気グルーヴ04-TAKE OFF AND LANDING https://t.co/RvjV28NwlV
    この手の類の文章ひさびさに読んだな…。

  7. “僕がいろいろと音楽を聴き始めたタイミングで『A』が出てるので、その頃のことはよく覚えてる” 84年生なら発売時13歳だぞ…。(まあ俺も85年生だし当時の感覚は少しは分かるけど) / “電気グルーヴ04-TAKE OFF AND…” https://t.co/O5MnmTgc01