08-マリヲくんまた

2023年01月15日 夕方公開終了

マリヲ(まりを)

 Instagramのストーリーに、F●●K FOREVERと書かれてあって僕のことかと思った。

 完全に自意識過剰で嫌になるけれど、FUCKというのはどちらとも受け取れる言葉なので嬉しいという気持ちに置き換えて一旦仕舞った。三回目に東京へ行った時のことを思った。

 

 最初にウィキくんの家に着いた時に会ったハナレくんは、交通事故で退院した直後で全身に鬱を纏っている感じだった。フローリングの床をバウンバウンと叩いて、ウィキくんがかけている音楽にしっかり呼応して事故のことを話してくれ、目が凄かった。

 一回目に東京に行った時はチューリッヒ保険会社のコールセンターで働いていて、同僚で友達のフウガくんに「藝祭があるから」と同乗させてもらってだった。渋谷のライブハウスで店長さんが、「渋谷はお互いがお互いに疲れあってるからねー」と言っていたのをずっと覚えていた。

 二回目に行った時は、彼女の顔馴染みの人たちと遊んだ。彼女は「その前の上京で、クレジットカードの番号を盗まれて買い物をされそうになった」と言ってたけど、今となっては本当かどうか分からない。けど、僕はおそろしい街なんだと思って緊張していた。彼女はそれ以上に、僕の浮浪者じみたヒッピー然とした服装が嫌だったらしい。水がなくてコンビニのトイレの便器の水で注射した、本当に雑菌がいっぱいなんだと認識したその、太く腫れあがってしまった腕を抱えながら、彼女とそういった話をした。

 三回目は僕も顔馴染みになったウィキくんに、ライブで呼んでもらって行った。西成でリュックごと置きっぱなしにした、あのMPCを持ってだった。

 サンガくんとはそこで会った。サンガくんは長いドレッドで、温泉で溶岩みたいなその頭をゆっくり動かしながら、濡らさないよう黙って揺れているのが印象的だった。

 ほれいいちこ、ほれ僕は生ハム、ほれ僕は今晩のお好み焼きの材料、と言ってウィキくん家で、それぞれ上着から出すので、どれが買ったものでどれが万引きしたものかは分からなかった。今夜はお好み焼きを振る舞います!と意気込んで、食器だけは丁寧に洗った。お邪魔している身分、それを忘れないようにと冷蔵庫だけは勝手に開けなかった。 

 明日は餃子、餃子です美味しいの、と言ってみんなに集合をかけた。明日はウィキくん主催のパーティーが渋谷moduleであるから、それが終わって明けた朝、ここに集合という軽いものだった。愛憎の中にみんないる感じだった。合流した関西のミュージシャンはロヒプノールを砕いて鼻から吸い、ねっとりしたセックスを横でしてた。彼女にもう寝る、と言うと財布を枕の下に敷いて寝なさいと言われた。ウィキくんは生まれ変わったら極楽鳥になりたいと言って、MIDIフェーダーをかちゃかちゃパソコンのキーボードで操作してた。

 

 ライブ当日は凄かった。

 ライティングは朝ぐちゃぐちゃになっていて、落ちたLEDライトを手で操作し、テンサクくんの顔に当てたりして「手製サイケデリック」をみんなでやった。僕がインドから持ち帰ってきたロヒプノールは凄くて、駐車場で尿を漏らして寝ている人が数人いた。富士そばでたんまり食べて、すぐ横の南口駅前ロータリーでたんまり吐いた。盛りそばがまた出来た。それをネパール出身という人が心配して来てくれて、彼女は警戒してシッシと言った、何日かの記憶が重なって、まるでひとつになっているみたいだ。

 彼女から電話がかかってきた時、僕は打ち上げのサイゼリヤでウィキくんとカクくんと一緒だった。彼女は財布を僕の鞄に忘れていて、いま私はちょっと良い感じでみんなとドラえもんを描いているから保管しておいて欲しいとのことだった。ウィキくんが少し前にサイゼリヤの、マグナムワインに「粉」を入れてくれてて、僕たちも良い感じだった。ほなまた後で、と言って電話を切った。ライブみんな最高でしたね、と言ってわあわあ言っていると家族連れがたくさん来店してきて、なんだか居心地が悪くなったのを僕たちは酒でごまかした。机を動かして目いっぱい家族連れと離した。

 ウィキくんはもう一回ワイン、カクくんはビール、僕は階下のローソンでTシャツをかごに見立てて、アサヒビールをそこに入れるだけ入れて持ち込んだ。気持ちが大きくなった僕たちはこのまま店を出てしまおう、と言ってそのまま出た。へろへろの僕たちはきちんと咎められて、ウィキくんと割り勘した。カクくんは咎められたショックからか、僕たち若者の気持ちをなんで大人は分かってくれないんですか、あなたですよあなた、あなたも大人の一員でしょう代弁してくださいよ、私は若者の代弁者となって言ってますよ、とにかくそっけなく冷たいんだあなたたち大人はあ、みんなあ、と言って号泣してた。

 そこへ電話が、また彼女からかかってきた。ゴクサイくんとピル兄は職務質問の真っ最中だけれど、私は身分証明書がないから困っている、だからどこそこまで財布を持ってきて欲しいということだった。

 

 号泣が止まらないカクくんを連れて、そこへ電車で行った。そこはえらいことになっていて、警察のバスが四台くらい、パトカーもそれと同じくらい、その中心にいる彼女とゴクサイくんに話しかけに行くと、「もう勘弁してくれ」とゴクサイくんはアメリカンスピリットの黄色を深く吸っていた。ゴクサイくんの髪の毛の中には松ぼっくりがなぜだか入り込んでいて、それを愛おしそうに触りながらだった。

 ゴクサイくんは「友達がコンビニで万引きした上、店員に怪我をさせて逃げたらしい」と友達の名前を言った。その瞬間、警察のヘリコプターが頭上を飛んだ。僕もタバコを深く吸って、「これはたぶん長くなりますね」とゴクサイくんに言った。

 彼女は、財布が戻ってきたが僕の身分が分からないという理由で拘束された。もちろん僕もそれについていく形で連行された。署では、全員の尿検査・持ち物検査が行われて、MPCはネジ止めも外されていた。僕と彼女の財布に入っていたダライラマはスルーだった。僕は「ダライラマだからねー」と言って浮かれていた。友達からもらったお守りの中に入っていた粉が目立ってしまって、長くなった。

 粉は結局何でもなかった。

 神様は粉じゃなかった。

 

 這う這うの体でウィキくん家にみんなで帰ると、みんないた。あっ餃子、餃子を作りましょうと言って、材料を当たると鶏ガラスープがなかった。ちょっと買いに行ってきます、チューリッヒ保険会社で作ったクレジットカードはもうすぐ限度額に到達する、でも東京にいるうちは大丈夫だと確信して思いきり使った。帰りのバスのチケットもそれで買った。ゴクサイくんの友達は「俺、もしかしたら指名手配になるかもなあ」と言っていた。その横顔はヘトヘトのみんなに紛れてはっきりしていなかった。

 

 ハヤトくんは亡くなったタキさんと僕との「義理の三兄弟」の長男役だった。

 そのハヤトくんが店をやるとSNSで知って、改装工事を手伝いに行った、久しぶりだった。サッポロの500ミリリットルを二人で買いに行って呑んだ。ハヤトくんはスッポンレコードのSupと書かれたTシャツを着てたんだった。そのまま店を手伝うことになって、ハヤトくんは難波の千日前を雄々しく歩く時に、おまえとまさかこんな風に歩くことが出来るとは、と言ってくれた。僕もそっくりそのままその気持ちだった。

 ハヤトくんはご飯炊き用の土鍋を買ってくれた。僕は毎週それを使って、カレーとかカオマンガイを作って売った。それはそのまま僕の収入になった。カレーを炊くのは拾った銅鍋だった。目無堅間(めなしかたま・MNSKTM)という名前のそこは、入り口にボタンが付いていて、そこを押すと中の連動したライトがチカチカなる仕組みだった。回されるマリファナやいろんなものは、僕が時々用意するもので、それもそのまま僕の収入になっていた。鍵を閉めてはそういうことをしていたけど、いつのまにか鍵もしなくなっていた。

 目無堅間で溺死と十年ぶりに会った。溺死は「負けない」とか「ロレックスの歌」を歌った。真っ正面からラップをしてて、ラップのど真ん中で仁王立ちだった。むちゃくちゃ格好良かった。一晩でアルバムを、ゲボさんの一軒家でハルビンズ弐拾伍のアルバムをレコーディングした頃から十年。到底一晩では到達できない言葉を溺死は錬成してた。東京に引っ越して精神を少し崩して、僕と同じ薬を飲んでいるらしいとハヤトくんから聞いた。会えて嬉しいのも含んで、「負けない!」と溺死がラップした時、負けろ!とガヤを飛ばした。本当は、負けてもいい、とか、負けるはずないだろう、というような気持ちだった。それで少し喧嘩した。

 千葉雅也の『デッドライン』のあとがきで、町屋良平が「小説には結論はないのだ。ここからは読者こそがその先へ進まなければ」と書いていた。溺死ともう五年が経って、もう一度会ったのはタラウマラでだった。溺死はMNSKTMというイベントに出演するため来阪していた。   

 MNSKTMは、ハヤトくんの目無堅間が名前と形態を変えたイベントだった。あの時はごめん、僕はこんな気持ちで負けろって言った、と溺死に言った。溺死は、あの時はお互い若かったし、僕も状態が悪かったから、と笑っていた。サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』、あれ僕読んだけど全然理解できてないと思うわ、と言い、溺死はあれは良いですよ、スペクタクルですよ、と言ってもう一度笑うのだった。その僕と溺死をかんちゃんは写真に撮り、僕はかんちゃんと溺死の写真を撮った。今くらちゃんからメールが来た。くらちゃんのお嫁さんが妊娠三か月だということだった。おめでとうとメールした。

 町屋良平は繰り返しみたいに言うのだった。「変わったのは読者の方なのだ」

 

 その日、僕はシェアハウスから引っ越したての西九条の、第二白鳥マンションでモトキくんのラップをレコーディングしていた。先輩だけど直接の先輩ではないし、ケンから紹介されて何となく一緒にいたような人だったけど、そのケンはこの間一晩中モトキくんに弄られてしまっていた。

 理由は分からない。結局一グラムとお金をモトキくんに約束する形でその夜は済んだ。僕はモトキくんの言いつけで、そのとき持っていたiPhone4を使って、その約束を録音した。それをモトキくんは笑いながら何度も繰り返し聞くので、へどが出そうだった。愛想で一緒に笑う自分にはもっと反吐が出そうだった。

 僕は少し前、近鉄のなんば駅前でドラッグを取りに行く途中、鍵をかけずに自転車を放置したのを見咎めた警察と、押し問答になっていた。途中でモトキくんが電話をかけてきて、その電話を警察と代わるとなぜか「そのまま行っていい」ということになった。モトキくんに救われたと思った。

 押し問答の最中、なんば駅前を犬の散歩中に通りがかったハヤトくんは、顔の横に手でバランを作りながら、そっと目線をそらしたのだった。当たり前だ。でも僕はあっハヤトくんや、ハヤトくん、ハヤトくん久しぶりです、と声をかけてしまった。ハヤトくんが警察と少しだるそうに話しているのを、僕は黙って見てた。一緒にいた友達もだるそうに、でも黙って見てた。モトキくんは何もないところから、何もない答えを出すのが異常にうまかった。

 それは全然、ずいぶん前だ、一度生まれ変わったような気持ちになってから目無堅間に行ったので、だからずいぶん前で、だからその時のことをハヤトくんは笑って話してくれる。生まれ変わっても前世みたいにして過去はいつでもすぐそばにあるので、生まれ変わってもない、だから容易にすぐメールとかが来る。目無堅間にモトキくんの友達がふらっと現れて、僕のポケットに注射器をそっと入れたんだった。その時は入れてくれた、というような気持ちだった。そのまますぐトイレに駆け込んで、すぐに電話番号を聞いたんだった。だからその時の恩情が絡んだ気持ちで、またすぐモトキくんと会うようになった。モトキくんが、前の僕の家に文字通り土足で上がって来たことは、部屋が汚れていたからとかいう何もない答えで納得してしまっていたんだった。それで味園ビルに向けたラップ、効きすぎて声もろくに出ない状態の、そのラップを何回も録音ボタンを押しては聞いて、やり直し続けていたんだった。モトキくんは今ラップをしているけど、本当はギタリストだった。

 モトキくんは何やら何々組、とか、若い衆、とかが出てくる電話で約束を取り付けてきた。僕の持っていた大量のしょうもないもの、クッキーにしてやっとの、捨てるところに困っているから引き取ってくれというマリファナの売れない部分、それをごまかして大量に売り付ける、そのプランを済ましてきてた。お金からドラッグ、ドラッグからお金へ、そのお金からもう一度ドラッグへの変換も済ませて、だからその日はモトキくんも、友達も、たくさん持っていた。僕もそれをさっき買ったから、たくさんあった。

 今日はサンガくんが久しぶりに大阪でDJをしてくれる、目無堅間でそのパーティーを僕が開催する日だった。いや、翌日か、だから次に開催するパーティーの、仮フライヤーを作ろうと思っていたんだった。今日、次に出てくれるDJからOKをもらったので、その正式名称をネットで調べていた時に、モトキくんが「さあラップを録ってくれ」となったんだった。

 僕はガレージバンドというアプリを開いて、録音ボタン、モニターはいけてますか、トラック大きくしましょうか、これでいきますね、それでは一、二、三、ハイと言ってから、すぐグーグルの画面に戻って、DJの正式名称とそのDJのイメージにピッタリ合う画像イメージを探すんだとパキパキしていた。

 ヘッドホンはひとつしかなくてモトキくんがしてるから、モトキくんの声だけで、終わりや始まり、とちったとかうまくいったとかを僕は聞いていた。どうだった?と訊かれたので、別のところから持ってきたような言葉で、味園ビル、あの駐車場で僕月を見たことがあるんですね、その気持ちになりました、掠れた低音のような声で今歌ったのはあの地下駐車場もイメージさせるのでいいと思います、とか言ってもう一度聞く。ここをこうやって残して、ここをもう一度歌ってみる、というモトキくんの指示に倣ってそれをそうする。繰り返しは続いて、僕はグーグルの作業も繰り返していて、ガレージバンドが何回も走りっぱなしになったりしていた。

「一回休む」と言ってモトキくんはベッドに座って、深く息を吐いた。ベッドに戻る途中、机とベッドの間で格闘技を観ている友達の膝を、モトキくんはさっと触った。こういう最中は、女性も男性も、一切境目がなくなって一瞬欲情したりする。行動には移さないけど、男性同士、女性同士のそれも含めて欲情したりする、その欲情の一種だと思って振り向いて、僕は「エナジー溜めてくださいね」と言ってグーグルの画面に戻った。途端に、僕の椅子が蹴りあげられた。

 何のことかは分からなかった。姿勢を崩して床に膝をついたけど、すぐまた笑った。何のことか分からなかったから、どうしたんですか、と言った。友達は、その僕の態度が気にくわないこと、そのもっと前からのパソコンの、片手間に録音していること、そのもっと前の僕の、焼きそばのアレンジなどについて怒っていた。普通のソースでええのにおまえ、わざわざ塩とかにして意味分からんねん、おまえのその笑ってない感じとか、すぐひねくれて自分になるところとか、そういうのはもうまじでええねん、真面目に録音したれや録音、ちゃんとその間もちゃんと見とけや、俺はちゃんと見てたけどおまえ見てへんから失敗すんちゃうんかなど言うので、僕は言い返したら長くなると思って、精いっぱい顔を歪ませて何も言わなかった。モトキくんは吸って吐いてる、なあ、ちゃうんかおまえ、と言って僕の肩を足で押す、その友達の白色のハイソックスは土踏まずの部分だけ綺麗に白色が残っていて、足の底が見える度にそこだけ気になった。なあ、は、次第にだあ、みたいになって、その空洞の口の、歯がないということは、やっぱりモトキくんのを……と連想が止まらなくなったりした。ぼくはかかとを上げた正座の姿勢のままずっと顔を歪ませていて、あごとこめかみが一緒になる気持ちがしていた。

 

 ここにサンガくんが泊まるから、と思って注射器を片付けようとしたけどそれは許されなかった。そのままみんなで家を出た。モトキくんとその友達の、ごまかして売りつけた相手の先輩が、お金を返せと言ってきたからだった。

「要するにおまえのもののせいだから」と言う二人に、僕は心底悲しくなっていて、今は悲しいと言えるけど、その時は悲しいと思っていたのか分からない。「僕は関係ないので二人で話をしてきてください」とやっと言ってパーティーに向かった。

 

 借りた車は自宅前で駐車違反の切符が切られていて、その紙を保管したままだった。VJDJを送ったりするから、と借りた車だった。やけな気持ちはひとりになった時だけで、サンガくんを大阪に一緒に呼んだショウくんや、久しぶりにそこで会った彼女や、遊びに来てくれたみんなと会って話して、おまけにサンガくんは予定より二時間も多くDJをしてくれて、灼熱で、ノリくんが最後に花電車をかけてくれて、腕がちぎれるほど踊った。サンガくんを家まで送って、朝御飯は自宅近くのマリオーネでちくわパンとかバゲットとか、美味しいパンを買って彼女に渡して、ピクルスを買ってあるからそれなら食べれると思うから、と言って僕は言いつけの駅まで車で行った。

 二人が話をつけたというその駅には誰もいなくて、電話も二人は出なかった。

 もう夕方だった。なんやねんもう、もうなんでもええわとロータリーに寝転がった。僕はそのまま眠ってしまった。

 

 電話で起きた。もうサンガくんは今日の現場に着いている、彼女も自宅に帰っているとメールが溜まっていた。着信はハヤトくんからで、おまえの友達二人が店に来てる、金を所望してる、最近ラップもしないおまえはどうしたんや?おまえほんまにタキの弟か?タキに恥ずかしないんか、俺は金はないし、俺にできんのはもうこれまでや、おまえちゃんとおまえをせえよ、ちゃんとケリつけてくるんやぞ、と優しく言うのだった。

 僕はモトキくんとその友達の二人に、駅に来たけど誰もいなかった、自宅で待っているから話をしましょう、という旨を震えながらメールした。震えながら車で、今度はパーキングにちゃんと入れて、震えながらドアを開けて、自宅に入ってドアを閉めて、ドアの方に振り向いて、すぐそばにあった包丁を震えながら、思いきり握って立った。むー、とか、うー、とか、それに濁点をつけたような声を出しながらだった。

 

「マリヲくんまた今度店遊びいくわ」「マリヲ今日もええ感じやな」「マリヲくんそれは人徳やで」「マリヲヒップホップやってるか」「マリヲいっちょここから変えていこか」「マリヲさんてそういうところありますよね」「マリヲ今日呑んでへんの」「マリヲに会えると思ってなかったわ」「マリヲ何してんの」「マリヲは病気じゃないと思う」「マリヲ今日やばかったな」「マリヲ大丈夫」「マリヲってどこから買ってんの」「マリヲくん今日チケット五枚ありますか」「マリヲ今日なんか持ってない、交換しようや」「マリヲ危ないて」「マリヲええこと教えたろか」「マリヲくん残像みたい」「マリヲあの時のこと覚えてへんの」「わたしマリヲのちんちんやったらしゃぶれるわ」「マリヲバードキスみたいな動きするなよ」「おまえマリヲって言われてんの」「マリヲくん今度キャンプ行こな」「マリヲくんのアシッドやっぱええな」「マリヲくん今日も舌青いで」「マリヲまた寝てんの」「起きろマリヲ」「マリヲおまえ何考えてんねん」「マリヲおまえは恵まれてる」「マリヲのカレーなんか知らんけど美味しかったわ」「俺マリヲに感謝してることあんねん」「マリヲ死にたいとかあんまり言うなよ」「マリヲのおかんもマリヲと一緒でおもろいな」「マリヲ『ムーンパレス』読んだか」「マリヲくんに本借りてんの今思い出した」「マリヲくん元気ですか」「あマリヲくんや」「マリヲ仕方のないことなんてないからな」「マリヲくん毎度す」「マリヲおごるわ」「マリヲ祝福してくれ」「マリヲは下僕やから」「マリヲ緊張してる」「マリヲのそれは言いがかりや」「マリヲめんどいからな」「マリヲ顔灰色やで」「マリヲくん待ってるわ」「マリヲがキューピッドやから」「マリヲ酒呑もや」「マリヲくんベルリン行ったことあんの」「マリヲやったら毎日呑みにくるけどな」「マリヲくんちょっとさっきのは引きました」「言い出したのマリヲくんですよ」「やっぱりマリヲか」「マリヲやと思ったええかげんにせえよ」「マリヲやったらしゃあないか」「マリヲごめん遅れるわ」「マリヲくん言って良いことと悪いことあるんすよ」「マリヲは実体がないから」「マリヲええからはっきり言えよ」「マリヲ自分で決めろ」「マリヲくんごはん」「マリヲくんお腹すいた」「マリヲには相談できへんわ」「マリヲくんやったら分かってくれると思う」「マリヲくんの声がいいから」「マリヲくん楽しんでる」「マリヲくんそんなに急がんでいいで」「マリヲくん睫毛長いねんな」「マリヲくん口臭い」「マリヲがおらんくて悲しむ人もおんねんで」「マリヲくん」「マリヲくんまた」

 

 フネくんもタキさんも死んだ。

 ケンもどっか行った。

 僕ももうどっか行ってもいいか。

 まだ何かやんのか、しんどいなあ。と言ってもう一度、床に包丁を刺した。

 メールも電話も全然鳴らない。

 粥くんが言っていた「静寂の音圧」ってこういうことかと思った。

 眠って起きたらまたこんなんでも、どうせ何かを欲しがるんだろう、と思っていた。 

 

 西成の入船温泉は高いから頻繁には行かないけれど、今日はホテルダイヤモンドに自転車を借りて行った。陰茎をたくさん見て、僕と同じで陰茎の皮が剥けていない人が多いように思った。

 いつだってルーチンは崩さないように、サウナに二回、水風呂に二回、電気風呂に二回入る。若い女性スタッフが桶の垢を擦って落としているなかでも絶対負けないんだと思ってルーチンを繰り返した。

 排水溝の近くに座った洗い場で、シャンプーやリンスの小瓶、石鹸が漂着していた。

 それを拾って捨てようと思ったけど、慌てて思い止まった。常連は他にいるんだと思ったからだった。これは常連のやることだ。

 ダイヤモンドにいつも居てる若い現場作業員風の三人組に、沖縄出身かどうかを質問された。僕はどちらかと言えば北海道の方です、と言うと、道産子っすか、と言って人差し指と親指を口に当てるのだった。お兄さんもいかはるんですか、と言うので、母親とか父親はいってたんちゃいますかね、ヒッピー世代やし、と言って部屋に戻った。いよいよ危ないと思う。危ないというのは、関係が出来て面白くなくなってきた、と思っている方も含んでそう思う。

 僕がなっていいのは行きつけまでで、絶対にもう「常連」になってはいけない。(了)

『世の人』書籍化決定!刊行は2月下旬の予定です。続きは書籍版でお楽しみください)

images by 高橋昭子

 

マリヲ(まりを)

タラウマラ所属、ラッパー。 ●Discography Fiftywater / F.W.EP (タラウマラ/2020) SUNGA + WATER / RA・SI・SA (タラウマラ/2021) 中田粥 + Water a.k.a マリヲ / シャインのこと (中田粥+タラウマラ/2022) Hankyovain feat. Water a.k.a マリヲ / 他人の事情 (Treasurebox / 2022)

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  1. 百万年書房Live! にて連載中の「世の人」ですが、web連載は今回の “マリヲくんまた”で最終回となります。2月下旬に書籍化予定です。メナシカタマのパーティで、溺死と会って、5年ぶりに謝罪できたときは、うっかり人生讃歌みたいな気… https://t.co/0ImE8nSkx9

  2. >僕がなっていいのは行きつけまでで、絶対にもう「常連」になってはいけない<
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  3. 滅茶苦茶好きな連載が終わってしまった

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  4. 滅茶苦茶好きな連載が終わってしまった

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  5. ラッパーのマリヲの連載そのうち読もうと思ってやっと読んでみたけどすごいな…書籍化決まってて3月に発売するみたいなので本でたら買いたい

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