江戸アケミ01‐あんた気にくわない

2018年06月11日 夕方公開終了

文=T.V.O.D

コメカ はい、では今回からは江戸アケミ編です。これまで扱ってきた人たちの中で、たぶん一番マイナーな人になると思うので、ちょっと説明から始めたいと思うんだけど。80年代に活動していたバンド「じゃがたら」のボーカルだった人です。1953年生まれで、1990年に36歳の若さで、自宅での入浴中に不慮の事故で亡くなっています。

パンス 1979年、「じゃがたらお春」という名義で初めてのライブ。パンク、ニューウェイブのシーンで活動していました。ポスト・パンク的な感覚を背景に、アフロ、ファンクといった音楽の要素を存分に取り入れていて、いまの基準で聴いても驚きがあります。しかし音楽性にとどまらず、彼自身のキャラクターも突出していた。

コメカ じゃがたら活動初期のライブで、アケミは全裸になったり鶏や蛇を食いちぎったり、放尿・脱糞・流血……みたいな過剰なパフォーマンスをしていたらしくて。それを写真週刊誌に取り上げられたりだとか、いかにも「日本のアングラ・インディーズ」っていうイメージを、彼のキャラクターはバンドにもたらしていた。ただまあ、エログロみたいなノリで騒がれる状況に嫌気がさして、パフォーマンスはすぐにやめてしまうんだけど。でも、その後の彼の表現を観てみると、そういうパフォーマンスを露悪趣味としてやっていたわけではなく、ある種の「もがき」みたいなものとしてやっていたんだろうな、と思わせるところがある。

パンス 通常の音楽雑誌より、過激パフォーマンスを取り上げる週刊誌が取り上げるほうが価値がある、という志向が、メンバーの中であったみたい。よく語られがちだけど、実際に映像にはあまり残されていないような。それより同時代の映画表現ーー石井聰互山本政志の作品を観ると、当時の音楽シーンと人脈もリンクしているし、雰囲気が描かれてるなと思う。『闇のカーニバル』に出てくる、バーで踊り狂っているのも江戸アケミ。

コメカ 週刊誌の方が価値が、ってのはまるでYOSHIKIみたいだな(笑)。まあいかにも消費社会的な発想だよね、音楽評論されるよりも、メディア上でのイメージコントロールの方が重要だ、という。80年前後というのは、この連載でも折に触れ話してきたように、記号的なイメージを弄ぶことに人々が夢中になり始めた時期としてあった。じゃがたらと同時期に注目を集めたザ・スターリンも、そういう戦略を取り入れていたバンド。でもスターリンの遠藤ミチロウよりも、アケミはもっとセンシティブというか、そういう戦略に馴染めなかった……というより、そういう戦略が必要な消費社会自体に、本質的に違和感を感じていたんだと思う。

パンス マルコム・マクラーレン然り、この前に勃興していたパンクというもの自体が、そういう戦略を内包していたわけだよね。メディアをコントロールすることのラディカルさ。その意味では、スターリンのほうがさらに徹底していた。カセットブック『ベトナム伝説』では糸井重里と対談してるし、ジャンル横断みたいなことに意識的なんだよね。
じゃがたら自体は、ギミック的な部分を捨てて音楽的な志向に移り、1982年に『南蛮渡来』というアルバムをリリースする。

コメカ 『南蛮渡来https://amzn.to/2sKNyZp』リリース時にはバンド名が「暗黒大陸じゃがたら」になっていて、インディーズでその名前だと結局アングラ視されちゃうじゃんって話なんだけど(笑)、でも当時のインディ界隈の中では突出して音楽性が高い作品になっていた。ファンク、パンク、ノーウェイヴ、いろんな要素が混じった上で、アケミの言葉が力強くそこに乗る。アケミの歌詞にはじゃがたらの始まりから終焉まで一貫しているものがあって、今の若者にも届く言葉だと思う。

パンス これほどまでに直接入ってくる言葉はないよ。イントロで「あんた気にくわない」って、なかなか歌詞に起こそうって発想は出てこないと思う。

コメカ 「あんた気にくわない くらいね くらいね 性格がくらいね 日本人てくらいね」(笑)。この歌詞をパンキッシュなファンクサウンドに乗せてがなる(笑)。忌野清志郎の言語センスにもちょっと通じるところがあると思うんだけど、より武骨でよりナイーブな感じがあると思うんだよな。「ゴミの街に埋もれた 食いかけのハンバーグ あんたの手から落ちて 地面に吸いとられた さあしっかり 狙いを定めて 笑ったままで おやり」。清志郎はここまで低い目線に立つことはあんまりない気がして。

パンス 低い目線。当時、インディーで活動していたバンドは、寿町などのドヤ街でも盛んにギグを行ってた。じゃがたらも出演してる。それらは、当時の清志郎であれ、ポップ・ミュージックのメインにいた人々には得られない視点だったと思う。

コメカ 寿町フリーコンサート。しかも、じゃがたらの場合はそういう活動レベルだけじゃなくて、さっきの歌詞のように、表現レベルにもその目線の低さが顕れているっていうのが、他のバンドたちとは一線を画していたと思う。しかも、時代は80年代ですからね(笑)。世の中がどんどん浮かれていく状況の中で、アケミの表現していた世界はその浮かれっぷりに対するもがきや苛立ちが顕れたものだった。

パンス 具体的なイデオロギーこそないし、政治的な活動をしていたわけでもない。それよりももう少し射程が広いというかーー日本人の精神性自体に対する苛立ちがあったと思うんだよね。ただそれは憎しみのような形での表出ではない。かといってひねくれてもいない。とにかく直接的。非常に稀な存在だと思う。

コメカ 先に引用した歌詞もそうだし、三軒茶屋のフジヤマの看板にもなっている「やっぱ自分の踊り方で踊ればいいんだよ」っていうアケミの言葉にも顕れてるけど、彼は人間の共同性が生む抑圧や欺瞞に抵抗しようとしていた。「要するに救われたいんだよな、それも宗教以外で。リズムに解放される時ってあるじゃん? 一瞬だけどさ。リズムに救われるってことが。その一瞬をつかまえたいんだよ」っていう言葉も残してるけど、この感じって、タモリとか70年代プレサブカルの人たちと似て非なるものがあると思うんだよ。意味からの解放って意味では似てるんだけど、どこか決定的に違う。

パンス 同時代のサブカルチャーの人たちと異なっているのは、そこにアイロニーが存在しないってことじゃないかな。はぐらかしたり解体することで解放する、のではなく、ダンス・ミュージックという形式でど真ん中からぶつかっていった感じ

コメカ そうなんだよね、アイロニカルじゃないのよ。80年代サブカルチャーっていうのはアイロニーがデフォルトになっていたようなとこがあって、それはざっくり言うと、さっき言ったタモリ全冷中的なものが70年代に準備していたものがベースになってると思うのね。でもアケミにはアイロニカルなところが無かった。というよりも、もっと切迫してたんだろうなあという感じがする。ちなみにちょっと話が変わるんだけど、83年末ごろからアケミはノイローゼ状態になっちゃうんだけど、ちょっと後から見て気になるのはさ、84年に麻原彰晃こと松本智津夫が、「オウムの会」を作るんだ。(つづく:6/11更新、次回「江戸アケミ 02-「『救済』の方法」)

T.V.O.D.(てぃーゔぃーおーでぃー)

毎週土曜日、tumblrで政治や文化についての記事を更新しているテキストユニット。URL https://tvod.tumblr.com こめか/1984年生まれ。サブカルチャーや戦後民主主義が好き。テクノポップバンドmicro llamaのメンバー。Twitter @comecaML ぱんす/1984年生まれ。地図と年表を見るのが好き。Twitter @panparth

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  1. 【公開しました】ついに江戸アケミ編です。 江戸アケミ01‐あんた気にくわない https://t.co/pui0uC53WK

  2. 「やっぱ自分の踊り方で踊ればいいんだよ」江戸アケミ01‐あんた気にくわない https://t.co/BDnrqswIua

  3. コメカとパンスのTVODによる百万年書房LIVE!での連載「ポストサブカル焼け跡派」、江戸アケミ編スタート!

    「83年末ごろからアケミはノイローゼ状態になっちゃうんだけど、ちょっと後から見て気になるのはさ、84年に麻原彰晃こと松… https://t.co/BcwXL98Luq

  4. 「ポスト・サブカル焼け跡派」
    江戸アケミ編が始まりました。

    彼をキーワードに90年代の前史、その検証を始めていきます。

    “ちょっと後から見て気になるのはさ、84年に麻原彰晃こと松本智津夫が、「オウムの会」を作るんだ。” https://t.co/pQI2CQMSZZ

  5. 日曜の移転パーティーにもDJとして参加してくれるpanparth君がやってるテキストユニット「T.V.O.D」、江戸アケミ編が始まりましたよ。
    みんなほんと自分の踊り方で踊ればいいんですよね。 https://t.co/7H6TDqEIuN

  6. 荏開津さんこれ読んでどう感じるか気になるな…
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  7. 百万年書房LIVE「T.V.O.D」江戸アケミ編スタート。オウムと絡めて語られるの楽しみ。
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  8. 『お前はお前の踊りを踊れ』にガツンとやられた人間なので次回も楽しみです。

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  9. 文中にあるレコード屋、三軒茶屋フジヤマの「やっぱ自分の踊り方で踊ればいいんだよ」江戸アケミの言葉が刻まれた看板。8年前ポカムスでヘブンズドアにライヴした時遭遇した。あやしさ満点ながらも胸にくるものがあった。https://t.co/LK5t0TbGhE

  10. 1980年代のカルチャーや音楽について新しい言及があるのとてもいい、僕は異なる意見ありますがそれもこの記事が出たからとも言えます。Realsoundのヒップホップ連載でも題材ずれるため故アケミさんを十分に取り上げていません。

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  11. 江戸アケミ01‐あんた気にくわない https://t.co/9CzT91l4iw

  12. 自分は30歳前後で精神を深く病んだのですが、そこから回復する過程で身体で学んだ言葉や音楽は、ここで語られつつある「江戸アケミ的なもの」にかなり近かった気がする。それらが、図らずも3.11以降を生き抜く為の基礎体力となったのかも。… https://t.co/zQNr2SbaTJ

  13. 江戸アケミ01‐あんた気にくわない https://t.co/RwYfMBd2ly 矢沢永吉や沢田研二をきっかけにこの連載を読みはじめた人はポカーンとなってないよね?今CDも新品で手に入りづらいし定額聴き放題のストリーミングにもないんだよね。じゃがたら。

  14. “80年代サブカルチャーっていうのはアイロニーがデフォルトになっていたようなとこがあって……でもアケミにはアイロニカルなところが無かった。というよりも、もっと切迫してたんだろうなあという感じがする。”
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